
1 はじめに
昨今、大阪市路上喫煙防止に関する条例が改正され、これまでの路上喫煙禁止地区が大阪市内全域に拡大された(大阪市:路上喫煙を禁止する区域を大阪市内全域に拡大しました (…>事業別計画、指針・施策>まちの美化))。このような条例改正がされた背景には、大阪の夢洲にて令和7年4月4月13日から始まる大阪・関西万博(EXPO 2025 大阪・関西万博公式Webサイト)も視野に入れたものであるとあろう。このようにタバコ(紙タバコ・加熱式タバコを問わない。)を取り巻く環境は健康意識の増加も伴って近年は非常に厳しいものとなっている。
そこで、以下では、タバコと取り巻く諸問題として、経営者側の視点から、従業員のタバコに関する留意点等を概説するものとする。
2 タバコと休憩時間の問題
まず、タバコに関して古くから議論されている問題として、タバコと休憩時間の問題がある。これは従業員が勤務時間中に不定期に離席する等して、タバコを吸いに行く場合に、それが勤務時間とされるのか、休憩時間とされるのかという労働時間管理の問題として議論がされるものである。
この点について、過去の裁判例では「労働時間」を、労働者が使用者の指揮命令下にある時間と定義したうえで、このような指揮命令下にある状態といえるかどうかを基準に一定の判断をしている。そして、タバコ休憩を取っていたとしても、何かあればすぐに対応できる状態であり、一時的な離席という程度であれば、未だ労働者が使用者の指揮命令下にあるものとして労働時間に該当すると判断されることになる。他方で、一時的な離席とはいえずに比較的遠くの喫煙所にタバコを吸いに行き、何かあればすぐに対応できる状態とは言えない場合は、指揮命令下から外れていると判断される可能性がある。
ただ、これらの判断を一概にすることは困難である。
これらを就業場所から喫煙場所までの移動時間(例えば喫煙所まで徒歩5~10分以内であれば労働時間と考えられる等)を基準に判断するという見解も見られるところである。この点について、就業場所が店舗等であり現に当該店舗で顧客対応を行うようなサービス業であれば、その場にいるかどうかが重要であり、移動時間を基礎とした判断も妥当するように思える。また、そのような就業形態であることに加えて、近年では健康増進法の改正等も相まって、テナントの入居するビル自体では喫煙所を設けておらず、相当に遠くの喫煙所に行かなければ喫煙出来ない状況にもあるということであれば、当該喫煙行為を指揮命令下を外れた休憩時間と判断することも可能であるとは考えられる。
しかしながら、そのような場合以外の例えばオフィスワーカーである場合は、現在はテレワーク等も普及し、スマートフォンさえあれば場所を問わず会社からの連絡を受けたり、資料の確認をしたりする等の業務に従事することが可能な状況である(極端に言えば、情報管理リスクの側面等を度外視すれば、喫煙所でタバコを吸いながら仕事をすることすら可能である。)。そして、そのような状況は、非喫煙者の離席によるコーヒーブレイクやお菓子休憩も同様であり、タバコ喫煙行為のみを区別することは困難であるといえる。
このような状況からすると、タバコ休憩を労働時間ではなく、休憩時間として管理することは現実的には非常に難しいものといえるであろう。
そうすると、タバコ喫煙による離席のみを他の離席と区別して、労働時間外として休憩時間として扱い、給与減額等の厳しい対応を取ることは困難であると考えられる。
現実には、各従業員のモラルの問題として注意喚起等を行うことでの処理が限界とされるであろう。
3 喫煙禁止場所での喫煙をする従業員の問題
タバコ休憩についての基本的な考え方は上記で述べたとおりであるが、冒頭で述べたとおり、令和7年1月27日から大阪市路上喫煙防止に関する条例が改正され、これまでの路上喫煙禁止地区が大阪市内全域に拡大され(大阪市:路上喫煙を禁止する区域を大阪市内全域に拡大しました (…>事業別計画、指針・施策>まちの美化))、原則として大阪市での路上喫煙が禁止され、かつ、違反した場合は1000円の過料の対象とされた。
このような状況を前提に、仮に、従業員がタバコ休憩を行うにあたって、正式な喫煙所ではなく、路上喫煙禁止に違反した喫煙行為を行った場合は、雇用主として何等かの対応が可能であろうか。
まず、先述の労働時間の観点からすると、仮に、路上喫煙禁止地区で喫煙を行っており、現に過料制裁の取り締まりを受けた場合、過料制裁のための手続きとして取締官とのやり取りや書類作成に一定の時間を要するものであり、かつ、そのような手続きをしている間は会社からの指示や連絡を受けることが現実的に困難な状況に至っていると考えられる。そうすると、その場合は当該時間を指揮命令下から外れた勤務時間外として処理することも妥当であると考えらえる。ただし、そのような対応をしている時間をどのように算出するかという問題は存在する。
次に、就業時間中にそのような条例に反する行為をしたことを理由とした懲戒処分を課すことが可能であろうか。そもそも懲戒処分を課すためには、前提として就業規則が必要となるが、各社の就業規則の規定内容次第ではあるが、一般的には勤務時間中の条例を含む法令違反は懲戒事由に該当すると考えられる。また、勤務時間中の条例違反ということであれば、会社の信用を毀損したという解釈もあり得るところであろう。そうすると、就業時間中に路上喫煙禁止地区において喫煙を行い、条例違反行為をした場合は、一定の懲戒処分の対象とすることは可能であると考えられる。もっとも、飲酒運転等の法令違反行為とは同等の重い処分とすることは困難であり、ある程度の軽度の処分のみが許容され、その後、繰り返し違反がされる場合に徐々に処分程度を上げていくということが穏当かと考えられる。
いずれにしても、各事例において就業規則の解釈や個別事情を考慮した判断が必要となるため、従業員が路上喫煙禁止地区で喫煙する等の条例違反行為が確認できた場合は、そのような行為に会社・経営者としてどのような懲戒処分をするかはその手続きも含めて専門家である弁護士に相談しながら進めることを推奨する。
4 さいごに
このように大阪・関西万博の開催を控えた大阪市の路上喫煙禁止地区の拡大の条例改正に加え、健康増進意識の観点からも益々タバコを取り巻く環境は厳しくなっている。もっとも、会社・経営者側としては、従業員には喫煙者と非喫煙者が併存していることを念頭に、いずれにとっても必要な職場環境の整備・調整を行っていくことが求められる。
それらを踏まえたうえで、従業員が条例違反行為をしないためであったり、従業員同士の不公平感を発生させたりしないためであったりのために、必要な規則の制定や条例改正等の法令の周知撤退を行うことでより良い会社経営を行っていくことを願う次第である。
以上
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